2021年3月10日水曜日

それでも大好き (2012年10月13日作品)

 いきなりそれは始まった。最初は何が何だか分からないまま泣く事も忘れ呆然とするしかなかった。

なぜ?どうして?自分がいったい何をしたのか。
いくら考えても分からない。分からないよ。
鬼のように歪んだ顔の母の手が頭や顔やお腹に降りかかって来る。
だけど知っている。もう少し辛抱すれば収まる。収まってしまえばきっとまた自分に笑ってくれる母に戻ってくれる事を。

虐待。
何かの拍子にスイッチが入るようにそれは気まぐれに襲いかかってきた。
またいつものように嵐が過ぎ去るのを待っていたのだけれど今回はちょっと打ち所が悪かったみたいだ。どんどん意識がなくなる。
僕の身体が悲鳴をあげている。同時に母の心も悲鳴をあげているようだった。
何がいけなかったんだろう。
近所の人が警察に通報したのだろう。
僕は病院に運ばれ母は警察に連れて行かれた。

「お前のせいだ。お前がいなければ。お前なんか生まれてこなければ良かったんだ」

何度となく聞かされた言葉。
何度も言われるうちに何も感じなくなってしまった。

そっか。母がそう望んでいるならそれに従おう。
そう思ったら気持ちが楽になった。

今度生まれてくる時は望まれて生まれてきたい。
「かあさん」最期に思い浮かぶのは母の笑った顔。
懐かしいな。それでも大好きだよ

0 件のコメント:

コメントを投稿

感想等お聞かせください。
メールもあります。プロフィールからお入りください