2017年11月15日水曜日

ストーカー


 秋も深まりだんだんと木々の葉の色も変わって来た。
イチョウ、サクラ、ケヤキ。
早いものだとすでに葉が落ちていたりする。
肌寒さを覚えるもののある目的への執着心があればそんなものは気にするほどでもない。
もうすぐあの人がここを通り過ぎる時間。
早く、早く来て。一目その姿を見たい。

 木々が立ち並ぶ並木道の遥か向こうから見覚えのある姿が歩いてくるのが目に入った。
慌てて自分の姿がすっぽり隠れる街路樹に身を寄せる。
どんどんその姿が近づいてくる。もう少ししたら顔もはっきりと見える距離。
うん。いつもの優しそうな顔。目が合うことは無いけれど寂しいとは思わない。
じっと見過ぎていたせいかもしれない。通り過ぎた直後、あの人が急に立ち止まりきょろきょろと辺りを見回している。
見つかったかな。ドキドキしながらより一層身体を縮め樹に身を寄せる。
そのまま歩いて行ってしまう姿を目で追い気づかれなかったとほっとする。
だけど相反する気持ちも湧き上がってくる。
いっそのこと見つかってしまおうか。そうしたら笑顔を見せてくれるだろうか。
それともここを通らなくなってしまうのだろうか。
それは嫌だな。

 少しだけ後を追ってみる。
落ち葉を踏むカサカサと言う音を追いかけ、自分も軽い音をさせながらゆっくりと後を追う。
落ち葉が敷き詰められた並木道は紅葉を楽しんでいる人が多かった。
時々自分に反応を示す人も居たけれどそこは素通り、あの人を見失わないように。
もうこれ以上は追いかけられない所で立ち止まり、背中を見送った。
明日また会えると信じもと来た道を戻る。
足が重く感じる。
昼寝をしよう。明日が少し早く来るかもしれないから。

 毎日毎日同じように背中を見送る。
いつの間にか樹には葉が一枚も残っていなかった。
時々空から白いものが降ってくる。
さすがに寒い。でもあの人を見てる時だけは平気。
今日もブルブル震えながらひたすら待っていた。

 「見つけた。やっと見つけた。可愛いストーカーさん」
自分の頭の上からそんな声と同時に抱き上げられた。
 「僕の事ずっと見ていたのお前だろ?こんなに痩せっぽちで震えてる」

 寒さだけでは無い身体の硬直。
しまった。いつもより早い時間。油断をして見つかってしまった。
抵抗しようと身体をじたばたとするけれど抜け出せない。

 「おいで。ごはんをあげる。僕の家にはネコがいるよ。きっと仲良くなれる」
腕の中から顔を上げると優しい目がこちらを向いていた。

 "みゃあ"

腕の中の温もりが安心感とこれからの期待、そして少しの不安を与える。
自然と喉がグルグルを鳴る。
あごの下を撫でられた。気持ちいい。

 またこの並木道に来ることが出来るかな。


時々ここへ来てお気に入りの場所で昼寝をしよう。