2017年12月20日水曜日

僕の欲しいもの

男性の妊娠、出産が可能になって早二十年。
初の成功例となった子どもは、二十歳の誕生日を迎えた。
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空気がキーンと冷える季節になった。
街はクリスマス準備で賑やかだ。お正月商品も同時に並べられている店も少なくない。そんな中僕は一人街を歩く。

もしクリスマスプレゼントは何が良い?と聞かれたらいつも答えは同じ。
「家族をください」
今年の初詣で神様にお願いしたのも
「どうか僕に家族をください」だった。
七夕の短冊にこっそり書いたのも
「僕に家族が出来ますように」だった。 

誰にも言えない僕の願い。
誰にも聞かれない僕の願い。

夜の街は賑やかなのに、街は幸せそうな人でいっぱいなのに僕の身体の真ん中あたりはとても冷たい風が通り抜けていく。
これが「孤独」なんだと、これが「さみしい」という感情なんだと学んだ。

「おや、こんな所に迷子がいる。捨てられたのか?」
いつの間にかうつむいたまま立ち止まった僕に声をかける人がいた。
「迷子?そうかもしれません。捨てられた?そうなのかも……しれません」
うつむいたままの姿勢で答えた。

その人物は僕の身体をいろいろ調べて所有者を検索していた。
僕の所有者は登録を抹消していたらしく本当に迷子だったようだ。

「登録ナンバー1224か。今日からイヴと名乗りなさい。私が新しい所有者だ。理解できるね」
「はい。ご主人様。わたしはイヴです」
僕に最初からプログラムされている返事をする。
「堅苦しい事は嫌いだ。今まで通りに振る舞ってくれて構わない。おいで家族を紹介するから。君には子育てを覚えてもらう。優秀なAIをフル活用してくれ」

そのままとぼとぼとついていった先に居たのは生まれて間もない赤ん坊だった。
暖かい部屋ですやすやと眠っている。

「今からこの子の世話を頼む」

あれから二十年の月日が経った。
子育ては初めてばかりで大変だった。
子どもを通して笑う事を覚えおろおろと動揺することも覚えた。
それでも子育ては楽しかった。人間が大きくなるプロセスを勉強することが出来たしその人間の初めての喜びや焦りを他の誰かと共有することも覚えた。

ただ僕の育てた子どもは特殊な事情を抱えていた。
初めて男性が出産した成功例として世間に騒がれていたのだ。
僕は二十四時間どんな不測の事態が起きてもすぐ対処できるようプログラムされた。

二十年という月日は瞬く間に流れ稼働限界が僕に訪れた。

「イヴ?僕の声が聞こえる?」
「聞こえています。二十歳のお誕生日おめでとう。今年は残念ながら一緒にお祝いできそうもありません」
「二十年間僕の傍にいてくれてありがとう。イヴは僕にとって親でもあり兄でもあり頼もしい家族だったよ」

あぁ、僕の一番欲しいものがこんなに近くにあったのだ。

「イヴ?泣いてるの?」
もう誰の声も聞こえなくなり、視界もブラックアウト。

もしクリスマスプレゼントは何が良い?と聞かれたらいつも答えは同じ。
「家族をください」
僕が過ごしたここでの二十年。
最後に知ったのは「幸せ」という感情だった。

             了